惜しみなく愛は奪ふ
私は己を愛しているか。私は躊躇なく然りと答え得る。私は他を愛しているか。これに肯定を与える為めには私は或る条件と限度を附する事を必要とする。私は到底己を愛する如くには他を愛していないと云はなければならない。それではまだ尽していない。切実に云うと、私は己を愛し得るが故にのみ他を愛するのだ。それでもまだ尽していない。更に切実に云うと他が己の中に摂取された時にのみ私は他を愛するのだ。然し己の中に摂取された他は、実はもう他ではない。己の一部だ。畢竟私は己を愛しているのだ。而して己のみをだ。(有島武郎『惜しみなく愛は奪ふ』)
by pangxie
| 2007-07-09 00:55